今回は、シュワルツシルト解が持つ最も重要な物理的帰結である、「重力による時間の遅れ」と「重力赤方偏移」について、補足的な解説を加えていきます。この2つの現象は、一般相対性理論が実際に正しいことを示す重要な証拠となります。
重力による時間の遅れ(Gravitational Time Dilation)
一般相対性理論では、質量(重力)が存在すると時空が歪み、その結果、時間の進み方が変化します。この現象は、「重力による時間の遅れ」として知られています。この効果は、シュワルツシルト解の線素(計量)から直接読み取ることができます。
この式の時間成分に注目すると、重力源の中心からの距離$r$が小さいほど、つまり重力が強い場所ほど、座標時間$dt$に対する固有時間$d\tau$(静止している観測者の時計が刻む時間)の進みが遅くなることがわかります。具体的には、静止している観測者にとっての固有時間と座標時間の間には、以下の関係が成り立ちます。
この式は、地球上でもわずかながら測定されており、GPS衛星の時計を正確に同期させるために考慮されるほど重要な効果です。
重力赤方偏移(Gravitational Redshift)
重力赤方偏移とは、重力が強い場所から弱い場所へ光が移動する際に、その光の振動数が低く(波長が長く)なる現象です。これは、光が重力場を「登る」ためにエネルギーを失うためと考えることができます。
この現象も、重力による時間の遅れと密接に関連しています。重力が強い場所(例えば、星の表面)にいる観測者が発した光の振動数は、遠方にいる観測者から見ると、重力による時間の遅れのために低く観測されます。光の振動数$\nu$と波長$\lambda$の関係$(\nu = c/\lambda)$から、振動数が低くなるということは波長が長くなることを意味し、これがスペクトルが赤い方へずれる「赤方偏移」として観測されます。
特に、光がブラックホールの事象の地平線に近づくにつれて、時間の遅れが無限大になるため、遠方の観測者からはその光の振動数がゼロに近づき、もはや観測できなくなります。これは、光が事象の地平線から脱出できないというブラックホールの性質を、時間の遅れという観点から説明するものです。
まとめ
今回は、一般相対性理論の具体的な予言である重力による時間の遅れと重力赤方偏移について見てきました。
これらの現象は、アインシュタインの理論が単なる数学的な抽象概念ではなく、現実の宇宙の物理法則を正確に記述していることを示しています。これらの効果は、日常生活(GPSなど)や、ブラックホールのような極限的な天体現象の理解において不可欠です。
次回のノートでは、一般相対性理論の重要な検証の一つである「水星の近日点移動の現象」について、補足解説していきます。
参考文献
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- 一般相対論入門 改訂版 : [須藤 靖 (著)]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 I 特殊相対論 : [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著) ]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 II 一般相対論: [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著)]
- 相対性理論入門講義 (現代物理学入門講義シリーズ 1) [風間 洋一 (著)]
- 基幹講座 物理学 相対論 [田中 貴浩 (著)]
- 時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎[James J. Callahan (著), 樋口 三郎 (翻訳)]
- これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版: [千葉 逸人]
- 基幹講座 物理学 相対論: [田中 貴浩]
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