前回は、アインシュタイン方程式の左辺を構成する「リッチテンソル」と「アインシュタインテンソル」を導出しました。今回は、いよいよそのアインシュタイン方程式を解くことで得られる、最も重要かつ有名な厳密解の一つである「シュワルツシルト解」について解説していきます。
シュワルツシルト解とは
シュワルツシルト解は、重力源が球対称に分布している真空中の時空を記述する厳密解です。
つまり、中心に星や惑星のような球対称な質量源があり、その周囲には物質やエネルギーが存在しない領域の時空を数学的に表現します。これは、アインシュタイン方程式において、エネルギー運動量テンソルがゼロである、$T_{\mu\nu}=0$という条件のもとで解を求めたものです。この解は、天文学者のカール・シュヴァルツシルトによって1915年に導かれました。
シュワルツシルト解は、以下の線素(計量)で表されます。
ここで、$G$は万有引力定数、$M$は中心にある物体の質量、$c$は光速、$r, \theta, \phi$は球座標です。この式は、平坦なミンコフスキー時空の計量に、重力による時空の歪みを表す項が加わっていることがわかります。
シュワルツシルト解が持つ物理的な意味
この解には、驚くべき物理的な意味が隠されています。
1. 重力による時間の遅れ
シュワルツシルト解の第一項を見ると、時間に掛かる係数$\left(1 – \frac{2GM}{rc^2}\right)$が、重力源の中心からの距離$r$に依存していることがわかります。この係数が小さいほど、時間の進み方が遅くなります。これは、重力が強い場所($r$が小さい場所)ほど、時間の進みが遅くなる「重力による時間の遅れ」を正確に表しています。
2. シュワルツシルト半径とブラックホール
式をよく見ると、$r_g = \frac{2GM}{c^2}$という特定の半径で、計量テンソルの係数がゼロになったり発散したりすることがわかります。この半径は「シュワルツシルト半径」と呼ばれ、この半径の内側に入ると、光ですら脱出することができなくなります。この領域の境界は、「事象の地平線」として知られ、ブラックホールの存在を示唆しています。
3. 座標特異点と物理的特異点
シュワルツシルト半径$r_g$での発散は、実は座標系の選び方による「座標特異点」であり、座標を適切に変換すれば解消されます。しかし、$r=0$での発散は、座標変換では解消できない「物理的特異点」であり、この点で時空の曲がりが無限大になることを意味します。
まとめ
シュワルツシルト解は、アインシュタイン方程式の最も単純な厳密解であり、重力による時間の遅れやブラックホールという、一般相対性理論の最も劇的な予言を内包しています。この解は、私たちが日頃目にする宇宙の天体(太陽や地球など)の重力場を記述する上でも非常に良い近似を与えてくれます。
参考文献
記事を書くときに、部分的に参照したので載せておきます。
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- 一般相対論入門 改訂版 : [須藤 靖 (著)]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 I 特殊相対論 : [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著) ]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 II 一般相対論: [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著)]
- 相対性理論入門講義 (現代物理学入門講義シリーズ 1) [風間 洋一 (著)]
- 基幹講座 物理学 相対論 [田中 貴浩 (著)]
- 時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎[James J. Callahan (著), 樋口 三郎 (翻訳)]
- これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版: [千葉 逸人]
- 基幹講座 物理学 相対論: [田中 貴浩]
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