前回は、「リーマン曲率テンソル」の幾何学的意味を、閉曲線に沿ったベクトルの平行移動という視点から解説しました。今回は、この4階のテンソルが持つ、計算を劇的に簡略化する重要な「対称性」について見ていきましょう。
リーマン曲率テンソルの対称性
リーマン曲率テンソル$R_{\mu\nu\rho\sigma}$は、4階のテンソルなので、$4^4 = 256$個の成分を持つ可能性があります。しかし、その定義からいくつかの対称性が導かれ、独立な成分の数は大幅に減ります。
1. 第一の反対称性(Antisymmetry)
リーマン曲率テンソルは、最初の2つの添え字と、最後の2つの添え字のペアに対して、それぞれ反対称性を持っています。つまり、添え字を交換すると符号が反転します。
この性質は、リーマン曲率テンソルの定義(共変微分の交換子)から直接導かれます。
2. 第二の対称性(Symmetry)
リーマン曲率テンソルは、最初の2つの添え字のペアと、最後の2つの添え字のペアを丸ごと交換しても値が変わりません。
この性質もまた、リーマン曲率テンソルの幾何学的意味、すなわち閉曲線に沿ったベクトルの回転に起因します。元のテンソルが「ある面積を囲む」ことによって生じるベクトルの回転を表しているため、その面積を定義する添え字を入れ替えても、同じ回転を表すためです。
3. 巡回対称性(Cyclic Identity)
リーマン曲率テンソルは、3つの添え字を巡回的に交換した和がゼロになります。これはビアンキ恒等式の一部です。
これらの対称性によって、リーマン曲率テンソルの独立な成分の数は、4次元時空($n=4$)において、たった20個にまで減ります。この性質がなければ、アインシュタイン方程式を解くことは事実上不可能だったでしょう。
まとめ
リーマン曲率テンソルは、一見すると非常に複雑な4階のテンソルですが、その定義から導かれる反対称性、対称性、そして巡回対称性によって、その独立な成分の数は大幅に減ります。この性質は、アインシュタイン方程式の解を求める上で、計算を現実的なものにする上で不可欠なものです。
次回のノートでは、このリーマン曲率テンソルを縮約することで得られる、アインシュタイン方程式の構成要素である「リッチテンソル」と「アインシュタインテンソル」について解説していきます。
参考文献
記事を書くときに、部分的に参照したので載せておきます。
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- 一般相対論入門 改訂版 : [須藤 靖 (著)]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 I 特殊相対論 : [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著) ]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 II 一般相対論: [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著)]
- 相対性理論入門講義 (現代物理学入門講義シリーズ 1) [風間 洋一 (著)]
- 基幹講座 物理学 相対論 [田中 貴浩 (著)]
- 時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎[James J. Callahan (著), 樋口 三郎 (翻訳)]
- これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版: [千葉 逸人]
- 基幹講座 物理学 相対論: [田中 貴浩]
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