前回は、共変微分が持つ「線形性」、「ライプニッツ則」、そして「計量テンソルをゼロにする」という重要な性質について見てきました。今回は、これらの性質を使い、物理学で頻繁に登場する「発散(Divergence)」の概念を曲がった空間に拡張した、「共変微分の発散」について解説します。
共変微分の発散とは
通常のベクトル解析では、ベクトルの発散は$\nabla \cdot \vec{V}$と表され、ベクトル場が各点でどれだけ湧き出しや吸い込みを持っているかを示します。これを一般相対性理論の文脈で正しく扱うには、共変微分を使う必要があります。なぜなら、単なる偏微分では、座標系の歪みによって生じる見かけ上の変化まで含んでしまうからです。
共変微分の発散は、共変微分の添え字を縮約することで得られます。例えば、反変ベクトル$V^\mu$の共変微分の発散は、以下の式で定義されます。
ここで、$\Gamma^\mu_{\mu\lambda}$という添え字の縮約に注目してください。この項は「トレース(Trace)」と呼ばれる操作に相当し、非常に重要な役割を果たします。実は、このクリストッフェル記号の縮約は、計量テンソルから以下のように導出することができます。
ここで、$g = \det(g_{\mu\nu})$は計量テンソル$g_{\mu\nu}$の行列式です。この関係式を使うと、共変微分の発散は以下のように書き換えることができます。
この式は、通常の微分の発散に、計量テンソル(時空の歪み)による補正項を加えていることを明確に示しています。これは、曲がった空間における物理量の保存則を記述する上で不可欠な概念です。
アインシュタイン方程式の右辺にあるエネルギー運動量テンソルの発散がゼロになるという物理法則は、まさにこの共変微分の発散を使って表現されます。
まとめ
共変微分の発散は、通常の微分の発散を曲がった空間に拡張した概念であり、物理量の保存則を記述する上で不可欠なツールです。この発散は、通常の偏微分に加えて、計量テンソルの行列式から導出される補正項を含むことで、座標系の歪みを考慮に入れています。この概念を理解することで、なぜ重力源の近くでエネルギーや運動量が保存されるのか、その数学的な根拠が見えてきます。
次回のノートでは、これらの概念をさらに発展させ、改めて「リーマン曲率テンソル」の定義へと進んでいきます。
参考文献
記事を書くときに、部分的に参照したので載せておきます。
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- 一般相対論入門 改訂版 : [須藤 靖 (著)]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 I 特殊相対論 : [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著) ]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 II 一般相対論: [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著)]
- 相対性理論入門講義 (現代物理学入門講義シリーズ 1) [風間 洋一 (著)]
- 基幹講座 物理学 相対論 [田中 貴浩 (著)]
- 時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎[James J. Callahan (著), 樋口 三郎 (翻訳)]
- これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版: [千葉 逸人]
- 基幹講座 物理学 相対論: [田中 貴浩]
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