前回は、「テンソルの縮約と普遍性」について解説しました。今回は、一般相対性理論における最も重要なテンソルである「計量テンソル」について見ていきましょう。
計量テンソル(Metric Tensor)の定義
計量テンソル$g_{\mu\nu}$は、微小な距離(線素)を定義するために使用される、2階の対称な共変テンソルです。
簡単に言えば、時空の「ものさし」のような役割を果たします。計量テンソルの成分を見れば、その時空がどのように曲がっているかの情報を読み取ることができます。
この式は、微小な時空の距離の2乗$ds^2$が、計量テンソル$g_{\mu\nu}$と座標の微小変化$dx^\mu$、$dx^\nu$の積和で表されることを示しています 。
例えば、平坦なミンコフスキー時空の場合、計量テンソルは対角成分が$(-1, 1, 1, 1)$となるミンコフスキー計量となります。
添え字の上げ下げ(Raising and Lowering Indices)
計量テンソルは、反変ベクトルと共変ベクトルの間を変換する、非常に重要な役割を果たします。
下付き添え字から上付き添え字への変換:
共変ベクトル$A_{\mu}$に、上付き添え字の計量テンソル$g^{\mu\nu}$を掛けることで、反変ベクトル$A^\nu$を得ることができます。
この$g^{\mu\nu}$は、下付き添え字の計量テンソル$g_{\mu\nu}$の逆行列として定義されます。
上付き添え字から下付き添え字への変換:
同様に、反変ベクトル$A^\nu$に、下付き添え字の計量テンソル$g_{\mu\nu}$を掛けることで、共変ベクトル$A_{\mu}$を得ることができます。
この「添え字の上げ下げ」の操作は、双対性の概念とも深く結びついており、異なるタイプのベクトルを統一的に扱うことを可能にします。
これは、単にベクトルの成分を変換するだけでなく、物理法則を座標系によらない形で記述する上で不可欠な技術となります。
ベクトルの内積
計量テンソルは、ベクトルの内積を定義するためにも使われます。反変ベクトル$A^\mu$と共変ベクトル$B_\mu$の内積は、計量テンソルを介さずに、単純に同じ添え字を持つ成分の積和として定義することができます。
この内積はスカラー量(0階のテンソル)となり、座標変換によって値が変わらない普遍的な量となります。
これは、計量テンソルが「双対性」を媒介することで、物理量の内積をどんな座標系でも普遍的な形で定義できることを意味します。
次回のノートでは、この計量テンソルをさらに深く掘り下げ、「計量テンソルの変分」について解説していきます。
参考文献
記事を書くときに、部分的に参照したので載せておきます。
-
- 一般相対論入門 改訂版 : [須藤 靖 (著)]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 I 特殊相対論 : [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著) ]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 II 一般相対論: [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著)]
- 相対性理論入門講義 (現代物理学入門講義シリーズ 1) [風間 洋一 (著)]
- 基幹講座 物理学 相対論 [田中 貴浩 (著)]
- 時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎[James J. Callahan (著), 樋口 三郎 (翻訳)]
- これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版: [千葉 逸人]
- 基幹講座 物理学 相対論: [田中 貴浩]
コメント