前回は「4元速度」と「4元運動量」について解説しました。今回は、物理学における重要な概念である保存則を、相対論的な視点から見ていきたいと思います。
保存則の考え方
保存則とは、ある物理量が時間的に変化しない、あるいは空間的にどこにも生成・消滅しないということを表す法則です。
例えば、電荷の保存則は、ある体積内の電荷の変化が、その体積の表面から出入りする電流によって決まることを意味します。つまり、電荷が内部で勝手に生成されたり消滅したりすることはない、ということを示しています。
4元電流
この電荷の保存則を相対論的に表現すると、4次元のダイバージェンス($\nabla \cdot{A}^{\mu}$)がゼロになる式で表されます。この4次元ベクトルを「4元電流」と呼びます。これは、空間と時間を統一的に扱う相対論的な枠組みの中で、電荷の保存則を簡潔に記述するためのものです。
保存カレントと保存チャージ
ここで、「4次元のダイバージェンスがゼロになるような任意のベクトル場」を考えます。このようなベクトル場があれば、そこから一般化された保存則を導き出すことができます。
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- このベクトル場を「保存カレント」と呼びます。
- 保存カレントに対応する保存量を「保存チャージ」と呼びます。
保存カレントの各成分は、物理的な意味を持っています。
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- 時間成分($0$成分): 保存チャージの「密度」に対応します。
- 空間成分($1, 2, 3$成分): 保存チャージの「フラックス(束)」、つまり単位時間あたりに単位面積を通過する量に対応します。
例えば、電荷の保存則を考えた場合、保存チャージは「電荷」であり、そのフラックス(束)は「電流」に相当します。
この概念は、物理学における保存則を一般的に表現する、非常に強力なツールです。
例えば、前回のノートで解説した「4元運動量」も、保存カレントの一種として考えることができます。4元運動量の0成分はエネルギー、空間成分は運動量に対応し、これらの保存則は、4元運動量の発散がゼロになるという形で表現できます。
次回のノートでは、これらの概念をさらに発展させ、「エネルギー運動量テンソル」について見ていきます。
参考文献
記事を書くときに、部分的に参照したので載せておきます。
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- 一般相対論入門 改訂版 : [須藤 靖 (著)]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 I 特殊相対論 : [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著) ]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 II 一般相対論: [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著)]
- 相対性理論入門講義 (現代物理学入門講義シリーズ 1) [風間 洋一 (著)]
- 基幹講座 物理学 相対論 [田中 貴浩 (著)]
- 時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎[James J. Callahan (著), 樋口 三郎 (翻訳)]
- これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版: [千葉 逸人]
- 基幹講座 物理学 相対論: [田中 貴浩]
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