前回は、「リーマン曲率テンソル」が持つ重要な対称性について見ました。これらの対称性によって、独立な成分の数が20個にまで減ることがわかりました。
今回は、そのリーマン曲率テンソルを縮約して、アインシュタイン方程式の左辺を構成する「リッチテンソル」と「アインシュタインテンソル」を導出していきましょう。
リッチテンソル(Ricci Tensor)の導出
リーマン曲率テンソル$R^\lambda_{\rho\mu\nu}$は4階のテンソルであり、その成分は時空の局所的な曲がりを記述します。しかし、アインシュタイン方程式を記述するためには、より単純な2階のテンソルが必要です。そこで、リーマン曲率テンソルの添え字を縮約する「縮約(Contraction)」という操作を行います。
リーマン曲率テンソルの上付き添え字$\lambda$と、下付き添え字の2番目$\mu$を縮約することで、「リッチテンソル」$R_{\rho\nu}$を導出します。
このリッチテンソルは、時空の体積変化や測地線の収束・発散の度合いを表す重要な物理的意味を持っています。平坦な時空では、リッチテンソルはゼロになります。
リッチスカラー(Ricci Scalar)の導出
リッチテンソルをさらに縮約すると、時空の全体的な曲がり具合を表す「リッチスカラー」$R$が得られます。これは、リッチテンソルに計量テンソルの逆行列$g^{\rho\nu}$を掛け合わせて導出されます。
このリッチスカラーも、平坦な時空ではゼロとなります。
アインシュタインテンソル(Einstein Tensor)の導出
アインシュタイン方程式は、左辺が時空の幾何学、右辺が物質・エネルギーの分布を表す方程式でした。ここで、物理法則であるエネルギー運動量保存則を考慮すると、方程式の左辺も同様に共変微分の発散がゼロになる必要があります。この性質を満たすように、リッチテンソルとリッチスカラーを組み合わせることで、「アインシュタインテンソル」$G_{\mu\nu}$を導出します。
この組み合わせが、アインシュタイン方程式の左辺に他なりません。この天才的なアイデアによって、時空の幾何学と物質・エネルギーの分布を物理的に整合性のある形で結びつけることが可能になりました。
まとめ
今回は、リーマン曲率テンソルから、アインシュタイン方程式の左辺を構成するリッチテンソルとアインシュタインテンソルを導出しました。
これらのテンソルは、それぞれ時空の体積変化と物理量の保存則という重要な物理的意味を内包しています。これらの幾何学的な量と、物質・エネルギーを表すエネルギー運動量テンソルを等号で結ぶことで、アインシュタインの壮大な理論が完成します。
次回のノートでは、いよいよこのアインシュタイン方程式の厳密解である「シュワルツシルト解」について、その意味と性質を見ていきます。
参考文献
記事を書くときに、部分的に参照したので載せておきます。
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- 一般相対論入門 改訂版 : [須藤 靖 (著)]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 I 特殊相対論 : [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著) ]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 II 一般相対論: [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著)]
- 相対性理論入門講義 (現代物理学入門講義シリーズ 1) [風間 洋一 (著)]
- 基幹講座 物理学 相対論 [田中 貴浩 (著)]
- 時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎[James J. Callahan (著), 樋口 三郎 (翻訳)]
- これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版: [千葉 逸人]
- 基幹講座 物理学 相対論: [田中 貴浩]
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