前回は、共変微分の発散について解説し、計量テンソルから導出される補正項の重要性を見てきました。今回は、これまでの概念を統合し、一般相対性理論の中心的な幾何学的量である「リーマン曲率テンソル」の定義へとたどり着きます。
リーマン曲率テンソルの定義
リーマン曲率テンソルは、共変微分の順序を入れ替えたときの差として定義されます。この差は、時空が平坦でない場合にのみゼロではない値をとります。これは、私たちが平坦な空間では当たり前だと思っている、微分の順序を入れ替えても結果が変わらないという性質が、曲がった空間では成り立たないことを示しています。
具体的には、反変ベクトル$V^\lambda$に対する共変微分の交換子$(\nabla_\mu\nabla_\nu – \nabla_\nu\nabla_\mu)$を考えます。この演算を計算していくと、最終的に以下の式に比例することがわかります。
この式の右辺に登場する「リーマン曲率テンソル」$R^\lambda_{\rho\mu\nu}$は、以下のように定義されます。
この式は、一見すると非常に複雑ですが、その意味するところは明確です。リーマン曲率テンソルは、アフィン接続係数(クリストッフェル記号)の微分と積で構成されています。これは、時空の曲がりが、座標系の歪み(アフィン接続係数)の変化によって生じることを示しています。
なぜこの定義が重要なのか
リーマン曲率テンソルは、時空が「局所的に」平坦であるか、あるいは「曲がっている」かを判断するための究極的なツールです。等価原理によれば、私たちは任意の点で重力を消去するような座標系(局所慣性系)を見つけることができました。その座標系では、クリストッフェル記号はゼロになります。
しかし、クリストッフェル記号がゼロになるからといって、時空全体が平坦であるとは限りません。ここで重要になるのが、クリストッフェル記号の微分です。クリストッフェル記号の微分がゼロでない場合、座標系の歪みは場所によって変化します。この「変化の変化」こそが、リーマン曲率テンソルによって捉えられる時空の真の曲がりなのです。
したがって、もしリーマン曲率テンソルの全ての成分がゼロであれば、その時空は平坦であり、そうでない場合は、時空が曲がっていることを意味します。このテンソルは、アインシュタイン方程式の左辺を構成するリッチテンソルやリッチスカラーを導出する上での出発点となります。
次回のノートでは、リーマン曲率テンソルの「幾何学的意味」について、より直感的なイメージを使って纏めていきます。
参考文献
記事を書くときに、部分的に参照したので載せておきます。
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- 一般相対論入門 改訂版 : [須藤 靖 (著)]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 I 特殊相対論 : [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著) ]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 II 一般相対論: [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著)]
- 相対性理論入門講義 (現代物理学入門講義シリーズ 1) [風間 洋一 (著)]
- 基幹講座 物理学 相対論 [田中 貴浩 (著)]
- 時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎[James J. Callahan (著), 樋口 三郎 (翻訳)]
- これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版: [千葉 逸人]
- 基幹講座 物理学 相対論: [田中 貴浩]
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