前回は、曲がった時空における「真っ直ぐな道」である「測地線」と、その運動を記述するのに不可欠な「クリストッフェル記号」について解説しました。今回は、これらの概念をさらに発展させ、一般相対性理論の心臓部とも言える「共変微分」と「リーマン曲率テンソル」について見ていきましょう。
共変微分(Covariant Derivative)
平坦な空間では、ベクトルの微分は単純に行うことができます。しかし、曲がった時空では、座標系自体が場所によって歪んでいるため、単純な微分では不十分です。
例えば、ベクトルをある点から別の点に移動させると、ベクトルの成分だけでなく、それを記述する基底ベクトル自体も変化してしまいます。この基底ベクトルの変化分を考慮に入れて微分を行うのが、「共変微分」です。
ここで、$\partial_{\nu}V^\mu$は通常の微分であり、第二項の$\Gamma^\mu_{\nu\lambda}V^\lambda$が、座標系の歪みによって生じる基底ベクトルの変化を補正する項となります。
この補正項に、前回解説したクリストッフェル記号が登場します。共変微分は、どんな座標系で計算しても同じ物理的意味を持つ結果(テンソル)を返すため、一般相対性原理を満たす物理法則を記述する上で不可欠なツールです。
リーマン曲率テンソル(Riemann Curvature Tensor)
さて、時空が曲がっているかどうかをどうやって数学的に判断するのでしょうか?その答えが、「リーマン曲率テンソル」です。リーマン曲率テンソルは、時空の曲がり具合を定量的に表現する4階のテンソルです。
最も直感的なイメージは、「ベクトルを閉じた経路に沿って一周させたときの変化」です。例えば、平坦な平面上でベクトルを平行移動させながら四角形を一周させると、元の場所に戻ったとき、ベクトルは元の向きに戻ります。しかし、球面上のような曲がった空間で同じことを行うと、ベクトルは元の向きとは異なる方向を向いてしまいます。
この「一周したときのベクトルの変化」を数学的に表現したのがリーマン曲率テンソルです。
もしリーマン曲率テンソルの成分がすべてゼロであれば、その時空は平坦であり、逆にゼロでなければ、その時空は曲がっているということになります。リーマン曲率テンソルは、クリストッフェル記号の微分や積の組み合わせで定義され、時空の曲がりが重力であるというアインシュタインのアイデアを数学的に具現化するものです。
リーマン曲率テンソルの導出は、共変微分の非可換性(non-commutativity)を調べることから始まります。
平坦な空間では、ベクトルをx方向とy方向のどちらから微分しても結果は同じになりますが、曲がった空間ではそうはいきません。
数学的には、2つの共変微分の演算子を順序を入れ替えて作用させたときの差$(\nabla_{\mu}\nabla_{\nu} – \nabla_{\nu}\nabla_{\mu})$を計算することで、その差がちょうどリーマン曲率テンソルに比例することが示されます。この「順序の入れ替えによるズレ」こそが、空間が平坦でないこと、つまり「曲がっている」ことを数学的に表現しているのです。
次回のノートでは、これらの概念をさらに発展させ、「リッチテンソル」と「アインシュタインテンソル」、そしてついに「アインシュタイン方程式」を見ていきたいと思います。
参考文献
記事を書くときに、部分的に参照したので載せておきます。
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- 一般相対論入門 改訂版 : [須藤 靖 (著)]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 I 特殊相対論 : [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著) ]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 II 一般相対論: [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著)]
- 相対性理論入門講義 (現代物理学入門講義シリーズ 1) [風間 洋一 (著)]
- 基幹講座 物理学 相対論 [田中 貴浩 (著)]
- 時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎[James J. Callahan (著), 樋口 三郎 (翻訳)]
- これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版: [千葉 逸人]
- 基幹講座 物理学 相対論: [田中 貴浩]
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