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相対論ノート#14:計量テンソル

相対論
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あくまで個人的にまとめたノートなので、誤っている箇所があるかもしれません。参考にする際は内容の正当性について注意してください。もし誤っている箇所があればご指摘いただけたら嬉しいです。

前回は、「テンソルの縮約と普遍性」について解説しました。今回は、一般相対性理論における最も重要なテンソルである「計量テンソル」について見ていきましょう。

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計量テンソル(Metric Tensor)の定義

計量テンソル$g_{\mu\nu}$は、微小な距離(線素)を定義するために使用される、2階の対称な共変テンソルです。

簡単に言えば、時空の「ものさし」のような役割を果たします。計量テンソルの成分を見れば、その時空がどのように曲がっているかの情報を読み取ることができます。

$$ds^2 = g_{\mu\nu} dx^\mu dx^\nu$$

この式は、微小な時空の距離の2乗$ds^2$が、計量テンソル$g_{\mu\nu}$と座標の微小変化$dx^\mu$$dx^\nu$の積和で表されることを示しています 。

例えば、平坦なミンコフスキー時空の場合、計量テンソルは対角成分が$(-1, 1, 1, 1)$となるミンコフスキー計量となります。

補足として、ミンコフスキー計量の符号には流派があることに注意が必要です。
今回扱った計量は、時間成分がマイナス($(-, +, +, +)$)となる形式でしたが、場の量子論や弦理論など、分野によっては時間成分がプラスとなる形式($(+, -, -, -)$)を使用することもあります。
文脈によってどちらの流派が使われているかを確認することが重要です。また、これに関連して、相対論では$\sqrt{-1}$のような値が出てくることがありますが、これは単に成分が負であることから生じるもので、量子力学で使われる虚数単位とは異なる概念なので注意しましょう。

添え字の上げ下げ(Raising and Lowering Indices)

計量テンソルは、反変ベクトル共変ベクトルの間を変換する、非常に重要な役割を果たします。

下付き添え字から上付き添え字への変換:
共変ベクトル$A_{\mu}$に、上付き添え字の計量テンソル$g^{\mu\nu}$を掛けることで、反変ベクトル$A^\nu$を得ることができます。

$$A^\nu = g^{\mu\nu} A_{\mu}$$

この$g^{\mu\nu}$は、下付き添え字の計量テンソル$g_{\mu\nu}$の逆行列として定義されます。

上付き添え字から下付き添え字への変換:
同様に、反変ベクトル$A^\nu$に、下付き添え字の計量テンソル$g_{\mu\nu}$を掛けることで、共変ベクトル$A_{\mu}$を得ることができます。

$$A_{\mu} = g_{\mu\nu} A^\nu$$

この「添え字の上げ下げ」の操作は、双対性の概念とも深く結びついており、異なるタイプのベクトルを統一的に扱うことを可能にします。
これは、単にベクトルの成分を変換するだけでなく、物理法則を座標系によらない形で記述する上で不可欠な技術となります。

また「添え字の上げ下げ」の操作は、まさにアインシュタインの縮約規則を応用したものです。
具体的には、共変ベクトルや反変ベクトルと計量テンソルを掛け合わせた際に、上付きと下付きの添え字がペアとなって縮約されることで、新しいタイプのベクトル(反変ベクトルまたは共変ベクトル)が生成されると考えることができます。
これにより、見かけ上は添え字の位置が変わるだけに見えますが、その背後にはテンソルの普遍的な性質に基づいた厳密な数学的関係が隠されています。

ベクトルの内積

計量テンソルは、ベクトルの内積を定義するためにも使われます。反変ベクトル$A^\mu$と共変ベクトル$B_\mu$の内積は、計量テンソルを介さずに、単純に同じ添え字を持つ成分の積和として定義することができます。

$$A \cdot B = A^\mu B_\mu = A_\mu B^\mu$$

この内積はスカラー量(0階のテンソル)となり、座標変換によって値が変わらない普遍的な量となります。
これは、計量テンソルが「双対性」を媒介することで、物理量の内積をどんな座標系でも普遍的な形で定義できることを意味します。

補足として、内積の概念を量子力学におけるヒルベルト空間の内積と比較してみましょう。
どちらも「内積」という同じ操作ですが、その空間の性質によって定義が異なります。ユークリッド空間やヒルベルト空間では、内積は常に正の値を取る正定値性を満たしますが、ミンコフスキー空間では、光速を超える運動を扱うためにこの正定値性が壊れてしまいます。
しかし、重要なのは、一度数学的な内積の定義に沿った演算を確立すれば、その後の計算や理論展開は同様に行うことができる、ということです。ミンコフスキー空間での内積は、時空の距離を定義するために特有の内積として存在し、それが物理法則を記述する上で不可欠なツールとなります。

次回のノートでは、この計量テンソルをさらに深く掘り下げ、「計量テンソルの変分」について解説していきます。

参考文献

記事を書くときに、部分的に参照したので載せておきます。

    1. 一般相対論入門 改訂版 : [須藤 靖 (著)]
    2. 第3版 シュッツ 相対論入門 I 特殊相対論 : [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著) ]
    3. 第3版 シュッツ 相対論入門 II 一般相対論: [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著)]
    4. 相対性理論入門講義 (現代物理学入門講義シリーズ 1) [風間 洋一 (著)]
    5. 基幹講座 物理学 相対論 [田中 貴浩 (著)]
    6. 時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎[James J. Callahan (著), 樋口 三郎 (翻訳)]
    7. これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版: [千葉 逸人]
    8. 基幹講座 物理学 相対論: [田中 貴浩]

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