前回は「保存カレント」と「保存チャージ」について解説しました。今回は、これらの概念をさらに発展させ、物理学における重要な概念である「エネルギー運動量テンソル」について解説していきます。
テンソルとは
まず、「テンソル」とは、複数の添え字を持つ量のことです。物理学の法則を任意の座標系で記述するために用いられる、非常に重要な数学的対象です。例えば、$T_{\mu\nu}$のように、複数の添え字を持つ量として表現されます。
(テンソルといえば個人的には、”ある量から別の量への変換則”のイメージがあります…)
エネルギー運動量テンソルの導入
前回扱った「4元運動量」は、エネルギーや運動量といった保存量をひとまとめにしたものでした。この4元運動量に対応する保存カレントを「エネルギー運動量テンソル」と呼びます。このテンソルは、4次元の意味での発散(ダイバージェンス)がゼロになるという保存則を満たします。
エネルギー運動量テンソル $T^{\mu\nu}$ の各成分は、4元運動量の流れ(フラックス)を表します。具体的には、次のようになります。
- $T^{00}$ はエネルギー密度を表します。
- $T^{0i}$はエネルギーフラックス(空間成分へのエネルギーの流れ)を表します。
- $T^{i0}$ は運動量密度を表します。
- $T^{ij}$ は運動量フラックス(空間成分への運動量の流れ)を表し、これは応力テンソルとも呼ばれます。
完全流体のエネルギー運動量テンソル
粘性や熱伝導がない「完全流体」の場合を考えると、そのエネルギー運動量テンソルは比較的単純な形になります。このテンソルは、流体の静止系では以下の形で書くことができます。
ここで、$\rho$ は質量密度、$P$ は圧力、$U^\mu$ は4元速度、$\eta^{\mu\nu}$ はミンコフスキー計量テンソルです。流体が静止している座標系では、4元速度は$U^\mu = (c, 0, 0, 0)$となり、ミンコフスキー計量は対角成分が$(-1, 1, 1, 1)$の行列となります。これらを代入して各成分を計算すると、以下のようになります。
それ以外の非対角成分はゼロとなります。したがって、完全流体の静止系におけるエネルギー運動量テンソルは、次のような行列で表すことができます。
このテンソルは、一般的に対称性を満たします。
次回のノートでは、これらの概念をさらに発展させ、「等価原理」と「一般相対性原理」について纏めていきます。
参考文献
記事を書くときに、部分的に参照したので載せておきます。
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- 一般相対論入門 改訂版 : [須藤 靖 (著)]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 I 特殊相対論 : [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著) ]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 II 一般相対論: [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著)]
- 相対性理論入門講義 (現代物理学入門講義シリーズ 1) [風間 洋一 (著)]
- 基幹講座 物理学 相対論 [田中 貴浩 (著)]
- 時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎[James J. Callahan (著), 樋口 三郎 (翻訳)]
- これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版: [千葉 逸人]
- 基幹講座 物理学 相対論: [田中 貴浩]
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