前回は「双子のパラドックス」と「ローレンツ収縮」について解説しました。
今回は、特殊相対性理論の概念をさらに深めるために、「4元速度」と「4元運動量」について掘り下げていきたいと思います。
4元速度 (Four-velocity)
4元速度とは、粒子の固有時間あたりの座標変化として定義される概念です。これは直感的には、「自分自身が持っている時計が1秒進んだ時に、外の空間の座標がどれだけ変化するか」と考えることができます。
4元速度は、普通の3次元空間の速度のように4つの成分からなるベクトルで、以下のように定義されます。
ここで、$x^\mu$は4次元時空の座標($x^0 = ct, x^1 = x, x^2 = y, x^3 = z$)であり、$\tau$は固有時間です。この定義から、4元速度の各成分は以下のように計算できます。
ただし、$v^i = dx^i/dt$は通常の3次元速度の成分です。ここで、時間の遅れの関係式$dt = \gamma d\tau$を用いると、
となります。したがって、4元速度は$V^\mu = (\gamma c, \gamma v^1, \gamma v^2, \gamma v^3)$と表せます。この式から、3次元速度がゼロ(静止)であっても、4元速度のゼロ成分$V^0$はゼロにはならないことがわかります 。これは、物体が静止していても時間が経過することを意味しています。
4元運動量 (Four-momentum)
4元運動量は、質量に4元速度を掛けることで定義されます 。これは、ニュートン力学における運動量の概念を相対性理論に拡張したものです 。
これを4元速度の成分を用いて書き直すと、
となります。ここで、各成分について見ていきましょう。
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- 空間成分($P^i$):$P^i = \gamma mv^i$は、通常の運動量に$\gamma$を掛けたものです。速度$v$が光速よりも十分に小さい場合、$\gamma \approx 1$となり、ニュートン力学の運動量$mv$に一致します 。
- 時間成分($P^0$):$P^0 = \gamma mc$は、光速$c$を掛けることで、相対論的なエネルギーとして解釈できます 。
特に、物体が静止している場合($v=0$)、$\gamma=1$となり、$P^0 = mc$となります。この時間成分に$c$を掛けると、有名な「静止エネルギーの式」である$E = mc^2$が得られます 。これは、物体が静止していてもエネルギーを持つことを示しています。
次回のノートでは、これらの概念をさらに発展させ、「保存カレント」と「保存チャージ」についてまとめていきます 。
参考文献
記事を書くときに、部分的に参照したので載せておきます。
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- 一般相対論入門 改訂版 : [須藤 靖 (著)]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 I 特殊相対論 : [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著) ]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 II 一般相対論: [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著)]
- 相対性理論入門講義 (現代物理学入門講義シリーズ 1) [風間 洋一 (著)]
- 基幹講座 物理学 相対論 [田中 貴浩 (著)]
- 時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎[James J. Callahan (著), 樋口 三郎 (翻訳)]
- これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版: [千葉 逸人]
- 基幹講座 物理学 相対論: [田中 貴浩]
これまでの相対論ノート一覧
- 相対論ノート#1:空間の曲がりを数学的に表すには
- 相対論ノート#2:特殊相対性理論の二つの原理
- 相対論ノート#3:ローレンツ変換とその導出
- 相対論ノート#4:ミンコフスキー時空
- 相対論ノート#5:固有時間と時間の遅れ
- 相対論ノート#6:双子のパラドックスとローレンツ収縮
- 相対論ノート#7:4元速度と4元運動量
- 相対論ノート#8:保存カレントと保存チャージ
- 相対論ノート#9:エネルギーと運動量テンソル
- 相対論ノート#10:等価原理と一般相対性原理
- 相対論ノート#11:リーマン幾何学の基礎
- 相対論ノート#12:スカラー、ベクトル、テンソルの変換則
- 相対論ノート#13:テンソルの縮約と普遍性
- 相対論ノート#14:計量テンソル
- 相対論ノート#15:測地線とクリストッフェル記号
- 相対論ノート#16:共変微分とリーマン距離率テンソル
- 相対論ノート#17:リッチテンソル、アインシュタインテンソル、そしてアインシュタイン方程式
- 相対論ノート#18:アフィン接続係数と座標変換則
- 相対論ノート#19:等価原理とアフィン接続係数
- 相対論ノート#20:ベクトルの平行移動とテンソルの平行移動
- 相対論ノート#21:共変微分
- 相対論ノート#22:共変微分の性質
- 相対論ノート#23:共変微分の発散
- 相対論ノート#24:リーマン曲率テンソルの定義
- 相対論ノート#25:リーマン曲率テンソルの幾何学的意味
- 相対論ノート#26:リーマン曲率テンソルの対称性
- 相対論ノート#27:リッチテンソルとアインシュタインテンソルの導出
- 相対論ノート#28:アインシュタイン方程式の厳密解:シュワルツシルト解
- 相対論ノート#29:重力レンズ効果
- 【補足】ビアンキ恒等式とアインシュタインテンソル – 第30回
- 【補足】弱い重力場中の粒子の運動 – 第31回
- 【補足】重力による時間の遅れと重力赤方偏移 – 第32回
- 【補足】水星の近日点移動の現象 – 第33回
- 【補足】タキオン – 第34回
- 【補足】重力波 – 第35回





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