あくまで個人的にまとめたノートなので、誤っている箇所があるかもしれません。参考にする際は内容の正当性について注意してください。もし誤っている箇所があればご指摘いただけたら嬉しいです。
前回は、時間と空間が統合された「ミンコフスキー時空」についてお話しました。今回は、特殊相対性理論の最も直感に反する結論である「時間の遅れ(Time Dilation)」について解説していきます。
相対性理論では、時間と空間は絶対的なものではなく、観測する人の運動状態によってその進み方が変わります。特に、高速で動く物体に取り付けられた時計は、静止している観測者から見て、時間の進みが遅くなるという現象が起こります。
時間の遅れの数式での証明
この現象を理解するためには、「固有時間(Proper Time)」という概念を導入する必要があります。固有時間とは、その粒子自身の時計が刻む時間のことであり、どの慣性系から見ても不変な「時空の微小な距離(ds²)」を使って定義されます。
ミンコフスキー時空における微小な距離$ds$は、以下のように定義されます。
$$ds^2 = -c^2dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2$$
ここで、$d\tau$を固有時間として、$ds^2 = -c^2d\tau^2$と定義します。この定義は、固有時間がどの慣性系から見ても同じ値を持つ(不変量)であることを意味します。この定義を上記の式に代入すると、以下のようになります。
$$-c^2d\tau^2 = -c^2dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2$$
両辺を$-c^2dt^2$で割ると、以下の式が得られます。
$$\left( \frac{d\tau}{dt} \right)^2 = 1 – \frac{1}{c^2} \left[ \left( \frac{dx}{dt} \right)^2 + \left( \frac{dy}{dt} \right)^2 + \left( \frac{dz}{dt} \right)^2 \right]$$
ここで、右辺の括弧内は、私たちが通常の3次元空間で慣れ親しんでいる速度の2乗、$v^2 = \left( \frac{dx}{dt} \right)^2 + \left( \frac{dy}{dt} \right)^2 + \left( \frac{dz}{dt} \right)^2$です。この$v^2$を用いて式を書き直すと、以下のようになります。
$$\left( \frac{d\tau}{dt} \right)^2 = 1 – \frac{v^2}{c^2}$$
この式を$d\tau$について解くと、以下の重要な関係式が導かれます。
$$d\tau = dt \sqrt{1 – \frac{v^2}{c^2}}$$
この式から、$v$がゼロでない場合、$\sqrt{1 – v^2/c^2}$の項は1より小さくなります。これは、$d\tau < dt$、つまり運動している粒子の固有時間$d\tau$が、静止している観測者から見た時間$dt$よりも短くなることを意味します。これが「時間の遅れ」の数式的な証明です。
固有時間の持つ性質
この「固有時間」は、単に計算上の概念ではなく、自由粒子の運動と密接に関わっています。外力が働かない「自由粒子」は、時空図上では直線(等速直線運動)を描きます。この時、二つの点(始点と終点)の間で、自由粒子が通る世界線が最も長い固有時間を経過するという重要な性質を持っています。
これは、地点AからBへ移動する際に、途中で加速や減速などの運動をすると固有時間が短くなり、等速で直線運動をした場合に最も長い固有時間が経過することを意味します。この性質は、次回のノートで解説する「双子のパラドックス」を理解する上での鍵となります。
次回のノートでは、時間の遅れと密接に関連する「ローレンツ収縮」と、相対性理論における有名な思考実験である「双子のパラドックス」について、この固有時間の性質を用いて詳しく解説していきます。
参考文献
記事を書くときに、部分的に参照したので載せておきます。
- 一般相対論入門 改訂版 : [須藤 靖 (著)]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 I 特殊相対論 : [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著) ]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 II 一般相対論: [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著)]
- 相対性理論入門講義 (現代物理学入門講義シリーズ 1) [風間 洋一 (著)]
- 基幹講座 物理学 相対論 [田中 貴浩 (著)]
- 時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎[James J. Callahan (著), 樋口 三郎 (翻訳)]
- これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版: [千葉 逸人]
- 基幹講座 物理学 相対論: [田中 貴浩]
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