PR

※アフィリエイト広告を利用しています

熱力学のノート#1:熱、仕事、温度、そして永久機関

ゆいにっき勉強会
記事内に広告が含まれています。

熱力学のノート:熱、仕事、温度、そして永久機関

【注記】 この記事は、個人的な勉強会で学んだ内容を自分なりに整理した備忘録です。内容に誤りがあるかもしれませんので、お気づきの点がございましたら、コメント等でご指摘いただけますと幸いです。
今回は、熱力学の基本的な概念である「熱」「仕事」「温度」について確認し、「永久機関」についても標準的な方法で実現可能性を考えていきます。
スポンサーリンク
スポンサーリンク

熱・仕事・温度の定義と熱力学第一法則

熱と仕事:エネルギーの移動形態

物理学において、仕事も、本質的にはエネルギーの移動形態を表すものです。 熱は温度差によって自発的に移動するエネルギーの形であり、仕事は力学的・電気的な力によってなされるエネルギーの移動を指します。熱力学では、この二つの移動形態によって、系のエネルギーがどのように変化するかを考えます。

熱力学第一法則

熱力学の根幹をなす熱力学第一法則は、エネルギー保存の法則を熱力学系に適用したものです。 これは、系の内部エネルギー ($U$)の変化が、外部から受け取る熱 ($Q$)と、外部から加えられる仕事 ($W$)によって決まる、と述べています。式で表すと以下のようになります。

$\Delta U = Q_{in} + W_{in}$

ただし、慣習的に仕事「系が外部に行う仕事」 ($W_{out}$) で表現されることが多いため、その場合は符号が逆転し、以下のようになります。

$\Delta U = Q_{in} – W_{out}$

この法則から分かることは、熱と仕事は次元が同じ(どちらもエネルギーの単位を持つ)であり、内部エネルギーという状態量(経路によらず、始点と終点の状態だけで決まる量)の変化は、熱と仕事の合計によって決まるということです。 仕事は、経路によって値が変わる非状態量であるため、微小な変化で表す際には$d’$という記号を用いて区別することがあります。

$dU = d’Q + d’W$

このような見方をすれば、熱力学第一法則は「熱の定義式」と見なすこともできます。つまり、熱とは、力学的な仕事以外の方法でやり取りされるエネルギーの移動をまとめて指している、と解釈できるのです。

温度とは何か

温度とは、熱を流す能力の尺度です。 熱は高い温度から低い温度へと流れるため、温度差熱の移動を促す最も重要な要素となります。しかし、熱の移動に必ずしも温度差が必要なわけではありません。 例えば、水が沸騰して水蒸気になるような相転移の際には、熱を加えても温度は一定に保たれます温度差がなくても熱は移動するのです。しかし、逆に温度差がある場合には、必ず熱を流す能力がある、ということが熱力学の重要なポイントです。

永久機関の不可能性と熱力学第二法則

永久機関の種類

永久機関とは、外部からエネルギーを供給することなく、永久に仕事をし続ける架空の装置です。永久機関には二つの種類があります。
  • 第一種永久機関外部から何もエネルギーを受け取ることなく、無からエネルギーを生み出して仕事をし続ける機関。これは熱力学第一法則(エネルギー保存の法則)に矛盾するため、実現不可能です。
  • 第二種永久機関外部から熱を受け取り、その熱をすべて仕事に変えることで、熱効率100%を達成する機関。これは第一法則には矛盾しません。熱力学で重要なのは、こちらの第二種永久機関の方ですね。

熱効率の最大値は?

熱機関の熱効率 ($\eta$)は、受け取った熱量 ($Q_h$) のうち、どれだけを仕事 ($W$) に変換できたかを示す比率です。 サイクルを回す熱機関では、内部エネルギーの変化がゼロになるため、熱力学第一法則は $Q_{in} – W_{out} = 0$となり、受け取った熱 $Q_h$放出した熱 $Q_l$ を使って、仕事 $W$$W = Q_h – Q_l$ と書けます。これにより、熱効率は以下のように求められます。

$\eta = \frac{W}{Q_h} = \frac{Q_h – Q_l}{Q_h} = 1 – \frac{Q_l}{Q_h}$

もし熱効率が1を超える機関があれば、それは無からエネルギーを生み出していることになり、第一種永久機関と同じく実現不可能です。では、その最大値はどこまでなのでしょうか?

可逆機関の熱効率が最大であることの証明(背理法)

熱効率が最大となるのは、可逆サイクル(逆向きに動かせる理想的なサイクル)であるということが、熱力学第二法則から導かれます。これを背理法で証明します。
  1. 仮定: 可逆機関の熱効率 ($\eta_R$) よりも、効率の良い機関 X が存在すると仮定します。つまり$\eta_X > \eta_R$です。
  2. 機関Xが、高温熱源 ($T_h$) から熱 $Q_h$を受け取り仕事 $W$ をして、低温熱源 ($T_l$)熱 $Q_l$ を放出するとします。熱効率は $\eta_X = W/Q_h$ です。
  3. 可逆機関を考え、これに機関Xと同じ仕事 $W$ をさせます。この可逆機関が受け取る熱を $Q_h’$放出する熱を $Q_l’$ とします。熱効率は $\eta_R = W/Q_h’$ です。
  4. 仮定 $\eta_X > \eta_R$ に、それぞれの熱効率の式を代入します。 $\frac{W}{Q_h} > \frac{W}{Q_h’}$ $W$ は正の値なので、両辺を $W$ で割っても不等号の向きは変わりません$\frac{1}{Q_h} > \frac{1}{Q_h’}$
  5. この式から、$Q_h < Q_h’$であることが分かります。
  6. ここで、可逆機関は逆向きに動かせることを利用します。可逆機関を「ヒートポンプ」として動かし、仕事 $W$ を外部から受け取って低温熱源から熱 $Q_l’$ を受け取り高温熱源に熱 $Q_h’$ を放出させます。
  7. 機関X(順方向)逆向きに動く可逆機関同時に動かします。両者が行う仕事は互いに打ち消し合い、全体の仕事はゼロになります。
  8. このとき、全体の熱のやり取りを見てみましょう。
    • 高温熱源とのやり取り機関Xが $Q_h$ を受け取り可逆機関が $Q_h’$ を放出します。$Q_{h, net} = Q_h – Q_h’$
    • 低温熱源とのやり取り機関Xが $Q_l$ を放出し、可逆機関が $Q_l’$ を受け取ります$Q_{l, net} = Q_l’ – Q_l$
  9. 熱力学第一法則から、全体のエネルギー収支はゼロです。 $(Q_h – Q_h’) + (Q_l’ – Q_l) = 0$
  10. $Q_h < Q_h’$ であったため、$(Q_h – Q_h’)$ は負の値です。この式が成り立つためには、$(Q_l’ – Q_l)$ が正の値でなければなりません。つまり、全体として低温熱源から熱を受け取り、高温熱源に熱を放出しているという状況が生まれます。
しかし、これは「熱は、外部から何らかの作用(仕事)を加えなければ、低温の物体から高温の物体へ自然に移動しない」という、私たちの経験則に反します。この経験則こそが、熱力学第二法則の一つの表現です。 したがって、この矛盾は、最初の仮定「可逆機関よりも熱効率が良い機関が存在する」が間違っていたことを意味します。これにより、可逆機関の熱効率が最大であることが証明されました。熱効率100%の第二種永久機関も、この法則から実現不可能であると結論付けられます。

次→熱力学のノート#2:第一法則からエントロピーへ

参考文献

記事を書くときに、部分的に参照したので載せておきます。
  1. 熱力学の基礎 : [清水 明 (著)]
  2. 熱力学: 現代的な視点から (新物理学シリーズ 32) : [田崎 晴明 (著) ]
  3. 熱力学 (物理学レクチャーコース): [岸根 順一郎 (著)]
  4. エントロピーをめぐる冒険 初心者のための統計熱力学 (ブルーバックス 1894) [鈴木 炎 (著)]
  5. これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版: [千葉 逸人]

コメント

タイトルとURLをコピーしました