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物理の全体像:時間の謎とホーキングのアイデア
前回は、弦理論が予言する高次元の可能性と、宇宙がホログラムであるという驚くべきアイデアについて見てきました。 今回は、視点を変えて、私たちが日々感じている「時間」という概念について掘り下げていきます。なぜ時間は過去から未来へしか流れないのでしょうか?時間の矢と熱力学
物理法則は、一般的に過去と未来を区別しません。 例えば、投げられたボールの放物運動は、始点と終点を隠すと逆再生しても物理法則に矛盾はありません。しかし、現実世界では、コップが割れたり、インクが水に広がったりする現象は、逆再生すると非常に不自然に感じます。この違いは、たくさんの粒子が関わる多体系の振る舞いにあります。 この時間の不可逆性は、熱力学第二法則によって説明されます。 この法則は、孤立した系では時間の経過とともにエントロピー(乱雑さ)が増加していくことを示しています。つまり、秩序ある状態(コップが元の形をしている状態)から、無秩序な状態(コップが割れてバラバラになる状態)へと、時間とともに変化する傾向があるのです。 このエントロピーの増大が、私たちに時間の流れを「一方向にしか進まない」と感じさせる、「時間の矢」の正体と考えられています。相対性理論と時間の遅れ
アインシュタインの相対性理論では、時間の流れは絶対的なものではなく、観測者の運動状態や重力によって異なることが示されています。有名な双子のパラドックスがその例です。 宇宙旅行に出た双子の片割れは、地球に残ったもう一人よりも時間の流れが遅くなり、地球に帰還したときには、肉体的に若い状態であるというものです。 これは、高速で移動する物体では、時間の流れが遅くなるという現象(時間の遅れ)が起こるためです。GPS衛星の時刻調整など、私たちの日常でもこの理論は応用されています。ホーキングのアイデア:虚時間
特異点とは、物理法則が破綻し、密度や重力が無限大になる点のことです。一般相対性理論は、ブラックホールの中心や、宇宙の始まりであるビッグバンに、このような特異点が存在すると予言しました。 しかし、無限大という概念は、物理法則を適用できないため、これらは理論の大きな課題でした。 これに対して、スティーブン・ホーキングは、虚時間(虚数時間)という概念を提唱しました。 虚時間は、時間というものを私たちの知っている「実数」の次元から、数学的な「虚数」の次元に置き換えるという発想です。 この虚時間を導入すると、宇宙の特異点が「丸められて」なくなり、まるで北極点から始まる球体のように、宇宙には始まりの特異点が存在しないと考えることができるのです。これにより、特異点の問題を回避し、宇宙の始まりを数学的に記述することが可能になりました。 ただし、虚時間はについては現実の感覚にそぐわない部分もあり議論の対象となっています。 次回の記事では、この時間の謎をさらに深掘りし、時間が量子化されている可能性や、物理学が今なお挑み続けている課題について見ていきます。全記事一覧
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