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物理の全体像:高次元の宇宙とホログラフィー原理
前回は、すべての物質が「弦」でできていると考える弦理論について解説しました。この理論が数学的に成立するためには、私たちの宇宙が、私たちが認識している4次元時空よりも多くの次元を持つ必要があると予言しています。 今回は、この高次元の可能性と、そこから生まれた驚くべきアイデアについて見ていきましょう。弦理論が予言する高次元空間
私たちの住む宇宙は、3つの空間次元(縦、横、高さ)と1つの時間次元で成り立っていると考えられています。 しかし、超弦理論が矛盾なく成立するためには、9つの空間次元と1つの時間次元、合計10次元が必要であると示唆しています。また、さらに発展したM理論という理論では、10の空間次元と1つの時間次元、合計11次元の存在が考えられています。 では、我々が知っている4次元以外の残りの次元はどこにあるのでしょうか? 考えられるのは、私たちの日常的な感覚では認識できないほど、小さなスケールで空間が丸まっている(コンパクト化している)というものです。 まるで、遠くから見るとただの線に見える電線も、近づくとその周りに円周というもう一つの次元があるのと同じです。この余剰次元の存在は、新しいタイプのブラックホールを予言するなど、様々な可能性を秘めています。宇宙は影絵?ホログラフィー原理
この高次元空間での研究から生まれた、最も革新的なアイデアの一つがホログラフィー原理です。これは、特定のタイプの高次元ブラックホールが持つ「重力」の性質と、その時空の「境界」(表面)に住む物質の「量子」の性質が、数学的に完璧に対応しているというものです。 まるで影絵のように、高次元に存在するブラックホールの振る舞いが、低次元の物質の世界にその「影」を映し出しているような対応関係が見つかったのです。(理論的に) これはゲージ重力対応(AdS/CFT対応)とも呼ばれ、「宇宙は、より低次元の情報を投影したホログラムのようなものである」という、物理学の常識を覆す可能性を示唆しています。 このホログラフィー原理は、いまだ未解明な量子重力理論の探求に、新たな道を開くものとして注目されています。次回の記事では、この壮大な宇宙論から一転し、私たちの身近な概念である「時間」の謎について見ていきましょう。全記事一覧
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