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物理の全体像:量子力学の始まりと不確定性原理
前回は、古代の人々が用いた地球や月までの距離を測る知恵について見てきました。今回は一転して、現代物理学の根幹をなす量子力学の始まりに迫ります。 19世紀末、ニュートン力学と電磁気学で全てが説明できると思われていた時代に、一つの謎が物理学を揺るがしました。古典物理学の限界:プランクの発見
製鉄所などの炉の中で満ちている電磁波のエネルギー分布を調べた結果、従来の理論では説明できない現象(紫外破綻)が起こっていました。 この謎を解き明かしたのがマックス・プランクです。 彼は、光のエネルギーが連続的ではなく、特定の不連続な単位(量子)しか持てないという大胆な仮説を立てました。これは、光のエネルギーは振動数 $f$ に比例し、その比例定数がプランク定数 ($h$)で表されるというものです。$E = hf$
この考え方によって、黒体放射の観測結果を正確に説明できるようになり、ここから量子力学がスタートしました。波と粒子の二重性
プランクの発見は、光が粒子のように振る舞うことを示しましたが、光が波であることもすでに知られていました。 このように、光は粒子性と波動性という二つの性質を併せ持つことが分かりました。 そして、研究が進むと、光だけでなく電子のような粒子もまた、波の性質を持つことが明らかになります。これを象徴する実験が二重スリット実験です。
[二重スリット実験の模式図]
ミクロな世界を記述する方程式
すべてのミクロなものは、波動関数というものでその状態が記述されることが分かりました。そして、その波動関数を求めるための基本的な方程式が、シュレーディンガー方程式です。$H\psi = E\psi$
この方程式に含まれるハミルトニアンは、運動エネルギーと位置エネルギーの和で、その固有値が粒子の力学的エネルギーを表します。 この方程式を解くことで、ミクロな粒子の状態が明らかになります。しかし、この方程式からは、マクロな世界では考えられないトンネル効果のような現象が予言されます。不確定性原理
量子力学では、古典力学のように物体の状態を完全に記述することはできません。 これは、位置と運動量など、特定の物理量同士は同時に正確に測定することができないという不確定性原理があるためです。 不確定性原理によれば測定の手順を変えるだけで結果が変わってしまうという、古典的な常識からすると非常に奇妙な性質です。 ミクロな世界では、この交換関係の差がゼロにならず、不確定さが本質的に存在することが示されています。 ※交換関係 例えば物理量A,Bの2つがある場合に、これらの積と順番を入れ替えた積の差がどうなるのかを見るものが交換関係です。マクロな世界では$AB-BA=0$のように計算結果は0になります。つまりこの場合ではA,Bは交換可能なのです。 このミクロな世界を記述する量子力学は、マクロな宇宙を記述する一般相対性理論とは相性が悪く、この二つの理論を統合する試みが、現代物理学の最大の課題となっています。全記事一覧
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