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物理の全体像:非可換な世界と非整数次元
前回は、宇宙の初期に起こったインフレーションの謎と、それを解き明かすための道具である次元解析について見てきました。 次元解析によって、時空がプランク長という極めて小さなスケールで「穴」が空いているかもしれないという予測が立てられました。 今回は、そのような「決められない」、つまり不確定な世界を数学的に表現する手法について見ていきましょう。不確定な世界を記述する非可換幾何学
量子力学では、ある物体の位置と運動量を同時に正確に測ることはできません。これは、測定の手順を変えるだけで結果が変わってしまうためです。 このような性質を、数学的には「演算子が可換ではない(交換できない)」と表現します。つまり、$A$という測定と$B$という測定を考えたとき、$A$→$B$という順番と、$B$→$A$という順番では結果が異なるのです。 この「交換できない」世界を記述する数学が非可換幾何学です。 普段私たちが使う座標 ($x$, $y$) の世界は、順序を入れ替えても結果が変わらない($x \cdot y = y \cdot x$)可換な世界ですが、ミクロなスケールや時空に穴が空いている仮定では、この前提が崩れてしまいます。 非可換幾何学は、この不確定性を本質的に含むため、時空が滑らかではなく、「ぼやけた」ような構造をしている場合を記述するのに適しています。この理論を用いることで、新しいタイプのブラックホールや宇宙の形が導き出される可能性があります。非整数次元の可能性
時空に「穴」が空いていると、物体が動ける方向が制限されるかもしれません。 これは人に対して十分に大きい網のようです。穴の空いている部分は通れないので進む方向に制限が加わるようなものかもしれません。 例えば、私たちが住む3次元空間をイメージすると、どの方向にも自由に動けるように見えますが、もし時空が格子状の構造をしていたら、行ける方向が限られてしまいます。 このような、通常の整数の次元では記述できない複雑な構造を表現する数学が非整数階微分です。 これは、1階や2階のような整数の微分だけでなく、1.5階や2.7階のような非整数の微分を考えることで、フラクタル(自己相似)な性質を持つような、複雑な系の動きを記述することができます。 この考え方は、時空が「穴」の空いた、通常の次元とは異なる非整数次元の構造をしている可能性を示唆しています。 非可換幾何学と非整数階微分は、私たちが当たり前だと思っている「時空は滑らかで、位置は正確に決まる」という前提を根本から覆し、ミクロな宇宙の姿を新しい視点から探求する強力なツールなのです。全記事一覧
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