今回は、特殊相対性理論の最も不思議な性質である「光速不変の原理」に焦点を当てたいと思います。「光を追いかけても、光の速さは変わらない」という、私たちの直感に反するこの現象は、一体どういうことなのかを見ていきます。
ちなみに、Q&A #1の「Q3:なぜ光の速さは誰から見ても同じに見えるのでしょうか?」とは別アプローチです。
Q1:なぜ光の速さは誰から見ても同じに見えるのでしょうか?
私たちの日常的な感覚では、時速50kmの車から時速50kmのボールを投げると、ボールの速さは100km/hになりますよね。同じように、光を追いかけると光の速さも遅く見えるはずだ、と考えるのが自然です。
しかし、特殊相対性理論は、この常識を覆す「光速不変の原理」を提唱しました。つまり、どんな慣性系から見ても光の速さは常に一定であるというものです。
この不思議な現象を理解するために、「時間の遅れ」という概念を思い出しましょう。
アインシュタインの理論によれば、高速で移動する観測者の時間は、静止している観測者の時間よりもゆっくりと進むのでした。この現象が、光速不変の原理を成り立たせています。つまり、光を追いかける観測者の時間がゆっくり進むことで、光の速さが常に一定に見えるように「帳尻が合わされる」と解釈できるのです。
Q2:この不思議な足し算のルールって何ですか?
光の速さの振る舞いは、私たちが慣れ親しんだ「$1+1=2$」のような線形な足し算ではなく、非線形な足し算に従っている、と考えると直感的に理解しやすくなります。この非線形な世界の足し算の式、覚えているでしょうか?
これは、ある物体が速度$v$で動いているときに、その物体から速度$v’$で別の物体を投げた場合の、静止している観測者から見た新しい速度$c$を求めるための式でしたね。
この式に、速度$v$と$v’$がどちらも光速$c$である場合を代入してみましょう。すると、$c+c=c$という驚くべき結果が導き出されます。
この計算結果は、光速で進む物体から光速で光を放っても、その速さが光速のままであることを示しており、光速不変の原理と完全に一致します。
つまり、光速は宇宙における究極の速度であり、どんなに速い速度で移動しても、それ以上速くすることはできないのです。
Q3:これらの現象は、一体どうやって数学的に証明されるのですか?
私たちは、これらの奇妙な現象の背後にある数学的な構造も勉強しましたね。それはローレンツ変換です。
光速不変の原理と、上記のような非線形な速度の合成則を満たすためには、時間$t$と空間座標$x$が、観測者の速度によってどのように変化するかを記述する新しい変換式が必要になります。そして、その変換式こそが、以下のローレンツ変換の式でした。
ここで、$\gamma$はローレンツ因子と呼ばれるものです。
この式から、高速で移動する物体では時間が遅れる(時間の遅れ)ことや、長さが縮む(ローレンツ収縮)ことなどが導き出されるのでした。これらの現象は、単なるSFではなく、時空そのものが観測者によって相対的に変化するという、厳密な数学的構造に基づいているのです。
まとめと展望
今回は、光速不変の原理という、特殊相対性理論の疑問を改めて考えてみました。
この現象は、時間や空間が絶対的なものではなく、観測者によって相対的に変化するという、私たちの常識を覆す概念によって成り立っています。この考え方を理解すれば、相対性理論は決して難解なものではなく、非常に論理的な物理法則であることがわかります。
参考文献
記事を書くときに、部分的に参照したので載せておきます。
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- 一般相対論入門 改訂版 : [須藤 靖 (著)]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 I 特殊相対論 : [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著) ]
- 第3版 シュッツ 相対論入門 II 一般相対論: [江里口 良治 (翻訳), 二間瀬 敏史 (翻訳), Bernard Schutz (著)]
- 相対性理論入門講義 (現代物理学入門講義シリーズ 1) [風間 洋一 (著)]
- 基幹講座 物理学 相対論 [田中 貴浩 (著)]
- 時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎[James J. Callahan (著), 樋口 三郎 (翻訳)]
- これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版: [千葉 逸人]
- 基幹講座 物理学 相対論: [田中 貴浩]
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