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熱力学のノート#4:偏微分とルジャンドル変換

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熱力学の数学的ツール:偏微分とルジャンドル変換

【注記】 この記事は、個人的な勉強会で学んだ内容を自分なりに整理した備忘録です。内容に誤りがあるかもしれませんので、お気づきの点がございましたら、コメント等でご指摘いただけますと幸いです。
熱力学は、数学的な厳密さの上に成り立つ学問です。特に、複数の変数を扱う偏微分や、関数を変換するルジャンドル変換は、その核心をなすツールと言えるでしょう。 今回は、これらの数学的手法が熱力学においてどのような役割を果たすのかを見ていきます。 偏微分ついては計算方法は既知として、熱力学で使う偏微分表記の話に触れていこうと思っています。
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熱力学における偏微分表記の謎

関数の曖昧さと表記の工夫

熱力学では、系の状態を記述するために、内部エネルギー ($U$)エンタルピー($H$) といった熱力学ポテンシャルと呼ばれる関数を用います。例えば、内部エネルギーはエントロピー ($S$)、体積 ($V$)、物質量 ($N$) の関数として $U = U(S, V, N)$ と書けます。 しかし、熱力学では、同じ物理量である $U$ を、実験的に扱いやすい別の変数、例えば温度 ($T$) や圧力 ($P$) の関数として表現することもあります。例えば、$U = U(T, V, N)$ や $U = U(T, P, N)$ のようにです。 このように、出力が同じ物理量でも、入力となる独立変数が変わるたびに関数名を変えていると、表記が煩雑になります。そこで熱力学では、「出力が同じなら、関数名も同じにする」という大胆なルールを採用することが多いようです。 これにより、$U = U(S, V, N) = U(T, V, N)$のように書くことが一般的です。

偏微分における添え字の役割

この表記法は便利である一方、偏微分を行う際に問題を引き起こします。例えば $\partial U / \partial V$ と書いた場合、それが $U(S, V, N)$ を $V$ で微分したものなのか、$U(T, V, N)$ を $V$ で微分したものなのか、区別がつかなくなってしまうのです。 この曖昧さを解消するために、熱力学では独自の表記法が使われます。それは、微分する変数以外の、固定している変数を右下の添え字として明記するというものです。

$\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_{S,N}$

この表記は、「$S$ と $N$ を固定したまま、$V$ の変化に対する $U$ の変化率を求めている」ことを明確に示します。これにより、どの物理的な状況での変化率を扱っているのかが一目でわかるようになります。 個人的な経験からですが、偏微分のこのような表記方法は熱力学での特有の表記なような気がします。電磁気学や力学では、あまり使わないような気がするので…。

熱力学におけるルジャンドル変換の役割

ルジャンドル変換とは何か?

ルジャンドル変換は、ある関数を、その関数の偏微分係数新しい独立変数とする、完全に等価な別の関数に変換する数学的手法です。この変換の最も重要な特徴は、情報が失われないことです。つまり、変換後の関数から、元の関数を完全に復元できます。 ある関数 $f(x, y, z)$ $x$ルジャンドル変換して新しい関数 $g(\frac{\partial f}{\partial x}, y, z)$ を作る場合、その変換式は以下のようになります。

$g\left(\frac{\partial f}{\partial x}, y, z\right) = f(x, y, z) – \frac{\partial f}{\partial x} \cdot x$

なぜ熱力学でルジャンドル変換が必要なのか?

熱力学におけるルジャンドル変換の重要性は、実験的に扱いやすい変数(示強変数)を独立変数に持つ新しい熱力学ポテンシャルを構築するためにあります。 例えば、内部エネルギー $U$完全な関数は $U(S, V, N)$ で、独立変数エントロピー $S$体積 $V$(示量変数)です。しかし、実験ではエントロピーを直接制御するのは困難です。代わりに、圧力 $P$ を一定に保つ方がはるかに簡単です。 熱平衡状態では、孤立系の内部エネルギー $U$最小になります。しかし、これは体積 $V$ が一定の場合に成り立つ性質です。圧力が一定の系では、体積が変化するため、この性質をそのまま使えません。そこで、圧力一定という条件下で最小化される新しい関数が必要になります。 この新しい関数、エンタルピー ($H$) は、内部エネルギー $U$体積 $V$ に関してルジャンドル変換することで得られます。 熱力学の基本関係式から、圧力 $P$内部エネルギーの体積による偏微分で表されます。

$\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_{S,N} = -P$

この関係を使ってルジャンドル変換の式を適用すると、エンタルピー $H$ は以下のように定義されます。

$H = U – \left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_{S,N} \cdot V = U – (-P)V = U + PV$

このエンタルピー $H$ は、圧力 $P$ とエントロピー $S$ を独立変数に持つ、新しい完全な熱力学関数となります。そして、圧力一定の条件下での熱平衡は、エンタルピー $H$ が最小になるときに達成されます。 このように、ルジャンドル変換は、異なる物理的条件下での熱平衡状態を記述するために、数学的に等価な異なる熱力学ポテンシャル間を繋ぐ、非常に強力なツールなのです。

参考文献

記事を書くときに、部分的に参照したので載せておきます。
  1. 熱力学の基礎 : [清水 明 (著)]
  2. 熱力学: 現代的な視点から (新物理学シリーズ 32) : [田崎 晴明 (著) ]
  3. 熱力学 (物理学レクチャーコース): [岸根 順一郎 (著)]
  4. エントロピーをめぐる冒険 初心者のための統計熱力学 (ブルーバックス 1894) [鈴木 炎 (著)]
  5. これならわかる工学部で学ぶ数学 新装版: [千葉 逸人]

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