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物理の全体像:アインシュタイン方程式とブラックホール
前回は、私たちが3次元に住んでいると考える理由と、重力が「時空の曲がり」として幾何学的にモデル化されることについてまとめました。今回は、その時空の曲がりを数学的に記述した、アインシュタイン方程式について見ていきましょう。アインシュタイン方程式の構造
アインシュタイン方程式は、物質やエネルギーがどのように時空を歪めるかを表現する、一般相対性理論の中心的な方程式です。その基本的な形は、以下のように書くことができます。 $R_{\mu\nu} – \frac{1}{2}Rg_{\mu\nu} = \frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}$ この式は一見複雑ですが、左右に分けることでシンプルに理解できます。- 右辺 ($T_{\mu\nu}$):エネルギー・運動量テンソルと呼ばれるもので、物質やエネルギーが時空にどのように分布しているかを表しています。
- 左辺 ($R_{\mu\nu}, R, g_{\mu\nu}$):曲率テンソルなどで構成され、時空がどのように曲がっているか、つまり重力の様子を表しています。
方程式の解:ブラックホール
このアインシュタイン方程式は非常に複雑な連立微分方程式で、これを解くことは容易ではありません。 しかし、アインシュタインの発表後、シュヴァルツシルトという物理学者が、電荷を持たず回転もしていない、球対称な天体の周りの時空を記述する解を導き出しました。 この解が、後にブラックホールと呼ばれる天体の存在を予言していたのです。ブラックホールの予見
ブラックホールの概念は、実はアインシュタインの相対性理論よりもずっと前から、ラプラスといった科学者たちによって予見されていました。 彼らは、物体が天体の重力を振り切って宇宙へ飛び出すのに必要な速度を脱出速度と呼び、その大きさを計算していました。 $v_e = \sqrt{\frac{2GM}{r}}$ この式から、同じ質量の天体でも、半径$r$が小さいほど脱出速度が大きくなることがわかります。 もし脱出速度が光速$c$を超えるような天体が存在するならば、その天体から光さえも抜け出せないだろうと考えました。 (光速の測定にも歴史があるので、実際には光速というよりも、脱出速度には限界があるかもしれない程度の話だったのかもしれませんが…) この「コンパクトな天体ほど重力が強く、逃げにくい」という考え方は、ブラックホールの存在を予見していたと言えます。 この様子は、重いボールを布の上に置くことで簡易的に想像できます。 布は時空、ボールは質量を持つ天体です。 大きくて質量の大きいボールと小さくて質量の小さいボールでは、大きくて質量の大きいボールの方が布を歪めそうです。 これは想像しやすいですが、もし仮に質量は同じで大きさだけが異なるボールの場合ではどうでしょうか。 大きなボールよりも、同じ重さでもっと小さいボールを置いた方が、布のへこみ(時空の歪み)は大きくなるでしょう。 このような簡易的な装置でも同じ質量でもコンパクトなものほど重力が強く、時空を大きく歪ませることを直感的に示しています。 今回は、アインシュタイン方程式と、その解であるブラックホールについてまとめました。次回は、この古典的な物理学の限界を打ち破った「量子力学」と、未来の物理学の展望について考察していきます。全記事一覧
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