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物理の全体像:ダークマターとダークエネルギーの謎
前回は、高次元の可能性と、重力波による観測の最前線についてまとめました。今回は、私たちがこれまで見てきた光や重力波の観測から明らかになった、宇宙の最も大きな謎であるダークマター(暗黒物質)とダークエネルギー(暗黒エネルギー)について掘り下げていきます。銀河の回転とダークマター
物理学では、フーリエの理論などを用いて、複雑な現象を単純な波に分解して解析することがよく行われます。 宇宙の観測でも、星や銀河が放つ光の波の性質を利用して、様々な情報を得ています。特に、ドップラー効果を使うことで、遠くの銀河がどれくらいの速さで回転しているかを正確に測定できるようになりました。 この観測によって、驚くべき事実が判明します。 銀河の回転速度は、中心から離れるほど遅くなるはずだと考えられています。これは銀河の中心ほど明るく物質が密集していると考えられるためです。 実際には、銀河の端のほうにある星々も予想よりずっと速い速度で回転していたのです。この速度では、目に見える物質の重力だけでは、星々は銀河の重力から振り払われてしまうはずです。 ※銀河団を束ねる重力と銀河の運動の関係を調べるにはビリアル定理を使います。 この矛盾を解決するために、光を出さないが、重力を持つ未知の物質が大量に存在しているという仮説が立てられました。これがダークマターです。この目に見えない巨大な重力源が、銀河全体を重力でつなぎとめていると考えられています。宇宙の加速膨張とダークエネルギー
さらに、宇宙の膨張速度を測る観測から、もう一つの大きな謎が浮かび上がりました。 超新星爆発の光を観測することで、宇宙が膨張していることは分かっていましたが、これまでは、物質の引力によってその膨張は徐々に減速していくと考えられていました。 しかし、遠方の超新星が予想よりも暗く見えることから、宇宙は減速するどころか、加速しながら膨張していることが明らかになりました。 この宇宙を加速させているのは、引力とは逆の、斥力(反発力)を持つ未知のエネルギーだと考えられ、これがダークエネルギーと名付けられました。宇宙の組成の約70%はダークエネルギーで、約25%がダークマターで、残りのわずか5%が私たちが見ることのできる通常の物質だと考えられています。 このダークマターとダークエネルギーの正体を解き明かすことが、現代宇宙論における最大の課題の一つです。全記事一覧
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