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物理の全体像:高次元のブラックホールと観測の最前線
前回は、アインシュタイン方程式から導かれるブラックホールの概念と、量子力学との融合から生まれたホーキング放射についてまとめました。今回は、私たちが住む世界の次元の可能性と、新たな観測手段である重力波について見ていきましょう。高次元の可能性
一般相対性理論は4次元時空(3つの空間と1つの時間)で記述されますが、実はさらに多くの次元が存在する可能性が理論物理学では議論されています。 たとえば、細い筒状の紙を遠くから見ると、それは1次元の線に見えます。しかし、近づくと、もう一つの次元(円周方向)があることがわかります。このように、私たちの日常的な感覚では認識できないほど、小さなスケールで空間が丸まっている(コンパクト化している)余剰次元があるという考え方です。 この考えは、ブレーンワールドのシナリオにもつながっており、私たちは3次元の「膜」(ブレーン)に閉じ込められており、重力だけが余剰次元に漏れ出しているのかもしれません。高次元ブラックホールが予言する多様な形
この高次元の考え方をブラックホールに適用すると、4次元時空では安定している回転するブラックホール(カー・ブラックホール)以外に、驚くほど多様な形状が予言されています。 例えば、ドーナツ型や円柱の層のような形をしたブラックホールが安定して存在しうると考えられています。実際に観測されているブラックホールはほとんどが回転しているため、これは4次元時空の理論を支持しているように見えますが、高次元の存在を完全に否定するものではありません。重力波による新たな観測の夜明け
私たちはこれまで、主に電磁波(光)を使って宇宙を観測してきました。しかし、近年、アインシュタインが予言した重力波が観測されるようになり、新たな天文学の幕開けとなりました。重力波は、ブラックホール同士の合体のような宇宙の激変によって生じる時空の歪みが、さざ波のように伝わってくる現象です。 この歪みは非常に微弱で、アインシュタインの予言から100年ほど経ってようやく、LIGOなどの観測装置によって捉えられるようになりました。この観測の成功は、光以外の手段で天体を「見る」ことが可能になったことを意味します。シミュレーションとドップラー効果
重力波の信号は非常に弱いため、ノイズの中から区別するには、コンピュータによるシミュレーションが不可欠です。一般相対性理論に基づいて、ブラックホールの合体などから生じる重力波の波形を予測し、そのテンプレートと観測データを照合することで、信号を正確に特定することができます。 また、銀河の回転速度を測る際には、光のドップラー効果が使われます。音のドップラー効果と同じように、天体が近づくと光の波長が縮んで青っぽく(青方偏移)、遠ざかると波長が伸びて赤っぽく(赤方偏移)見えます。この色の変化を測定することで、天体の速度を知ることができ、それが次の回で話すダークマターの存在を予言する重要な証拠となりました。全記事一覧
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