院試の勉強をしているため、覚えている内に何か備忘録を残しておこうと思いました。前回までのノートとは一応独立していますが、第5回目として「固体の統計力学」について書いていきます。
最初のステップとして、固体を原子の調和振動子モデルとして扱い、その量子状態の数を数え上げて、エントロピーと絶対温度という重要な概念を導出していきましょう。
固体の統計力学モデル
固体を、原子が規則正しく格子状に並び、それぞれの場所で微小な振動を繰り返している状態と考えます。この振動を、物理学で扱う調和振動子としてモデル化します。
エネルギーの量子化
量子力学の原理によれば、1自由度の調和振動子のエネルギーは連続的な値を取るのではなく、特定の飛び飛びの値(エネルギー準位)のみを取ることができます。このエネルギーは量子数$n$を用いて以下のように表されます。
ここで、$\hbar$はディラック定数、$\omega$は振動子の固有角振動数、$n$は$0, 1, 2, …$という整数値を取る量子数です。
多自由度系のエネルギー
固体全体は、非常に多数の調和振動子から構成されています。この系全体のエネルギーは、個々の調和振動子のエネルギーの単純な和として近似できます。
右辺の第2項は定数なので、エネルギーの基準点をずらすことで無視できます。新しいエネルギー$E’$を定義すると、以下のようになります。
この新しいエネルギー$E’$は、量子数の合計$M$に比例します。
量子状態の数え上げ
統計力学では、特定のエネルギーを持つ状態がいくつ存在するかを数え上げることが重要になります。この問題は、高校数学で習う重複組み合わせの考え方で解くことができます。
M個の区別できないエネルギーの単位を、N個の調和振動子に分配する場合の数は、以下の組み合わせの式で表されます。
※統計力学の本ではこのような記法で書いてあるのをよく見かけます。
高校数学で扱うような書き方だと以下のようになります。
$$W(E)=H(M, N) = {}_{M}\mathrm{H}_{N} = \binom{M+N-1}{N-1} = \frac{(M+N-1)!}{(N-1)!M!}$$
$W(E)$は、エネルギー$E$を持つ系のミクロな量子状態の総数を表します。
エントロピーと絶対温度の導出
統計力学の基本原理である等確率の原理によれば、孤立系ではすべての可能なミクロな状態が等しい確率で存在します。
系の最も安定な状態は、この$W(E)$が最大になる状態です。ボルツマン定数$k_B$を用いてエントロピー$S$を定義します。
このエントロピーは、系の乱雑さや情報量と関連しており、孤立系では常に増大し、平衡状態で最大になるというエントロピー増大の法則に従います。
次に、2つの物体AとBが熱平衡に達する過程を考えます。熱平衡状態は、全体の量子状態の数$W_{total} = W_A(E_A)W_B(E_B)$が最大になる状態です。このとき、両方の物体のエントロピーのエネルギー微分が等しくなることが示せます。この重要な物理量を絶対温度の逆数として定義します。
この定義により、熱平衡状態では$T_A=T_B$という、私たちが日常的に経験する現象を、統計力学的に説明することができます。
まとめと展望
今回は、固体の統計力学の導入として、調和振動子モデルを用いて量子状態を数え上げ、エントロピーと絶対温度を導出しました。次回は、この続きとして、スターリングの近似式を用いてエントロピーの具体的な形を求め、平衡状態におけるエネルギーの分配について見ていきます。
キーワード
統計力学、調和振動子モデル、エネルギーの量子化、量子数、自由度、等確率の原理、ミクロカノニカル分布、エントロピー、ボルツマン定数、絶対温度、熱平衡
参考文献
記事を書くときに、参照したので載せておきます。たぶん定番です。
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