前回はスターリングの近似式が非常に大きな数の計算に役立つというお話をしましたが、今回はそのスターリングの公式 $\log(N!) \approx N \log N – N$ の導出について、その流れを整理しておきたいと思います。
この導出は、高校数学と大学1年程度の解析学を前提に、離散的な和を積分で近似するという手法が鍵となります。
(参考文献にある長岡先生の )
導出の出発点:対数の和
スターリングの公式の導出は、階乗の対数 $\log(N!)$ を、個々の数の対数の和として捉えることから始まります。
この和を直接計算するのは困難なため、連続的な関数 $\boldsymbol{y = \log x}$ の積分を利用して近似します。
グラフと積分による評価
関数 $y = \log x$ のグラフを考えます。和 $\sum_{k=1}^{N} \log(k)$ は、高さが $\log(1), \log(2), \dots, \log(N)$ で、幅が $1$ の長方形の面積の和として解釈できます。この和を、関数の積分で上下から挟み込むことで評価します。
下側からの評価
各長方形の左端を高さとして、区間 $[1, N]$ の面積を考えます。この場合、長方形の和は積分の面積よりも大きくなります。
$\log(1)=0$ なので、
上側からの評価
各長方形の右端を高さとして、区間 $[1, N]$ の面積を考えます。この場合、長方形の和は積分の面積よりも小さくなります。
これは、
と書き換えることができます。
積分の計算と結論
解析学の知識(部分積分)を用いると、$\log x$ の不定積分は以下のように計算できます。
この結果を用いて、定積分を計算します。
これらの結果から、以下の不等式が成り立ちます。
$\boldsymbol{N}$が非常に大きい場合、$\log N$ や $1$ は $N \log N – N$ と比べて非常に小さくなります。したがって、$\log(N!)$ は $N \log N – N$ に非常に近い値を取ることがわかります。
これにより、スターリングの公式が導出されます。
離散的な和である $\log(N!)$ を、連続的な関数 $\log x$ の積分で挟み込むことで、$N$ が十分に大きい場合の近似式を導出することができました。
まとめ
今回は、統計力学で頻繁に登場するスターリングの公式の導出について整理しました。
この公式は、ミクロな状態の数を数え上げる際に、膨大な数の階乗計算を扱いやすい形に近似する上で不可欠なツールです。
キーワード
統計力学、スターリングの近似式、物理学、数学、導出、勉強ノート
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